SSブログ

水彩画をやってきた人なら水墨画は無理? [その他・お問い合わせ]

一、水墨画はどう認識されていますか


水墨画をやっている方、順調に進んでいますか?

以前受講生の中に、
油絵や水彩画、
パステルなどいろいろやっていたとか言う人がいます。

だから自分はもっとうまくなるのではないかとか、
とのような話もなり、
どう思うか意見を求められた。

確かにここ数年、水彩画はかなり人気があるようになり、
絵画教室の水彩画講座も多くなり、
本屋にいくと最も多く並んでいるのも水彩画の技法書がほとんどです。

実際、それがうまくいかず水墨画教室にやって来ているわけです。
実際長年の水墨画の指導で気づきますが
ほとんどプラスにはなっていないことがわかります。

いろいろ体験したい、
という気持ちはわかりますが、
そういった人の成長の軌跡を見ると
どれも中途半端です。

さて、次は本題の「油絵や水彩画をやってきた人は
水墨画も簡単にできる?」に入ります。



二、油絵や水彩画をやってきた人は水墨画も簡単にできる?

よく「水彩画をやってきた人は水墨画も簡単にできる」
という議論があります。
結論を言うと、ちがう、
むしろ水墨画の上達の妨げになる、

との一言です。
「水彩画をやっていた」と最初に自己紹介をしています。

まあ、年齢にもよりますが、
中には自慢げに聞こえてしまい、
他所で他の先生にも言われて悩んだりするかもしれません。

私は大学時代は油絵、水彩、水墨、書道などすべて必修科目でしたので、
とくに気に障ったりすることなく、

むしろ面白くその経験者の話を聞いています。
「水彩画をやってきた人は水墨画は簡単にできないぞ」

と言いたい。
この結果論を出したのは私だけかもしれません。

これから説明しやすいため水彩画と水墨画に絞って話したい。

両者においては、基本的なものの捉え方などは、

日本人が描いている範囲ではどちらも大差は
あるように感じます。
(失礼な言い方になるかな?)

まず、運筆(中国語用筆)の問題。
ただでさえ基本的な線が書けないのに、
一旦水彩画の運筆を身に着けてしまうとそのくせは簡単に抜けられない。

水彩画の筆は水墨画と違います。
また、伝統水墨画(南画など)、
特に中国の作品を見ると運筆の違いが特徴的になり、

書画同一の考えから来ているでしょう。
一言でいうと運筆です。

一番多く見られるのは、同じ箇所何度も塗ったりすることです。

水彩画ならそれでいいかもしれませんが、
水墨画でもそうしたら透明感、勢いなど失ってしまう。
春の水墨展の会場ではそのようなやからも少なくない。

水彩画をやればいいのに、いつも不思議に思った。
本人はもちろん水墨画として書いているつもりでしょうが、

第三者から見ると、
水墨画的には特に感じられません。

それから、二番目の問題はきれいな線が書けない。
水彩と水墨、とくに色彩を除けば両者の境はどこなの?時々そう思います。
水墨画特有の描線が一定の訓練をすれば習得できるが、

その部分がないと、
作品として成り立たない、
人間の形をしても骨抜きのゾンビのような感じです。

描線は一日二日でできるものではありません。
最初からしっかりやっておかないと途中からは無理です。
とくに先生もそこが強く求めなければ水墨画はらくだと勘違いしやすく

水墨画の失敗者はそういう人物が多いようです。


ATSk1.jpg

▲手本通り書けない、運筆の基本を知らない生徒の作例(水墨画歴2年)


IMG_20181201_1033402.jpg

▲運筆、用墨どちらもできていない(水墨画歴10年)



第三問題は構図の違いを知らないまま絵を書く。
水彩画は西洋画の範疇で、
構図的に水墨画とは違っているはずです。

水墨画は戦後日本画などを取り入れて額装にするやり方も展覧会場でよく見かけます。
そこまでやると勘違いする人が多く

水墨画と水彩画の違いは材料だけと思い込んでいるようです。
まだいっぱいありますが、書くと切りがないので
このあたりで。


三、水墨画に対する認識

西洋画の黄金の法則にたいして
一方、水墨画でいうと昔から「折枝画」のように、
法則のある構図法を忘れてはなりません。

実際それを無視して水墨画のままで書く人は
決して少なくないでしょう。
不自然で可笑しく思っても
彼らは平然とやっています。

極端に言いますと
あなたは掛け軸の形の油絵を見たことがありますか?

ないですよね。なぜないかというと、
それはよくないことが証明されたからです。

油絵の形は決まっており、
美の法則に則っている。

それは黄金比が美しいこと、
認められているからです。

水墨画には長い伝統から発展してきもので
決まりのある特殊な構図が多いです。

それを知らないで勝手にやっていると、
可笑しくて収拾付かなくなります。

水墨画にするか、
水彩画にするかの質問に対して、

ある人はこう言っています。
「水彩画は多くの色をつけます。
それに比べて、
水墨画は黒色1色です。

 白、黒、の二色で、
観る人に色を感じさせるのが水墨画の真髄です」

結局色は、違いますよ。
この人、わかっているようで分かってないようですね。
こういうふうに思っている人(絵描きさん)ってかなりいると思います。


四、水墨画を上達させるために

そもそも、水墨画においては色を塗るなどという表現よりも、
書く(描くではなく)という感覚に近いからです。

これは作者の筆の持ち方にも影響してくるでしょう。
分かりやすい例で言うと、
四君子など花鳥画を書くとき運筆はとくに目立っています。
その理由はもし「書画」という観点に立つと、

水墨画においては「線」を意識しなければなりません。
線の強弱で描くのには筆を立てに持った方がやりやすいです。

といっても実際山水画になるとさらに複雑な運筆が求められ、
線と面的に表現するわけで
描線のみならず側筆といって筆を寝かして描く方法です。

これは今の日本人に知らないひとが多く
だから書いた山水画や景色は「骨抜き」ゾンビのようなものが多いです。

水墨画はモノクロの水彩画?と思ったら
もうおしまい。

あなたは水墨画をやっているなら

もうこの先も進まなく、
きっとつまづくだろう。

筆の持ち方自体は、
水墨画の持ち方の方が、
皴法など、訓練すれば繊細な表現が可能です。
これは、文字で説明するよりも、

水墨画教室に通うなら先生の描き方を見て確認しやすいはずです。
すなわち水彩画、水墨画、両者相反するところがあります。

よって、水彩画、水墨画を同時に習っても
よいというやつの主張に

対して賛成できず、
じっとそうすると収拾がつないと思います。
本人も混乱に陥るばかりで、
酷い場合中途半端に終わってしまいます。

最後なにも得ないままで終わるのではないかと思います。

実際いままでそういう方に会いました。
水墨画をやるなら、
古い恋人のように一度、
水彩画の事をきれいに忘れたほうがいいですよ。

すると水墨画だけを集中に描いてみると良いと思います。
いや、むしろ必要かもしれません。



五、芸術と技術---能力は練習で見付けるほかない

同じ筆、同じ紙を使っているのに
うまく描ける人と何年やっても初心者レベルでへたくそ。

何年やっている人の経験を詳しく聞くと
ろくにも練習せず、同じテーマはたった2、3枚を

書いてそれで納得しており、自分は頑張ってきたと言い聞かせるようだ。
芸術は技術そのものではありませんが

絵を書く前提、表現の手段としては一定の技術が必要不可欠です。
はっきり言って2、3枚を書く程度は頑張ったとは言えない。

生徒にそういう人がいたら教える気もなく
やめてもらいたいくらい。
いい迷惑だ。

そういう生徒さんに限って無頓着で
落ち着いて練習することができない。

感性がいいかもしれませんが、
結局なに1つしっかりできるものを出せない。

もちろん水彩画などは排斥する考えをもっていません。
現代芸術を見ればわかるように
お互いの領域を参考にして発展してきました。

よって水墨も、水彩も、
表現技法の一つとして捉えた方が良いです。

ですが、それらの基本を学ぶ上では、
片方の事は忘れてしまった方が良いでしょう。
そしてそれらの基本を得た所で、

それらを同時に使う事ができれば表現は広がります。
そしてたとえ再び水彩画に触れたとしても、
新しい発見があると思います。


六、まとめ

今回は、「油絵や水彩画をやってきた人は水墨画も簡単にできる?」
という考えに対して否定的な答えを説明しました。

水墨画に近いと思われがち水彩画を例にして、
その人は水墨画も簡単にできるかどうかの話で、

水墨画について間違った認識から、
水墨画を上達させる方法、

特に書く能力について、
芸術は技術そのものではありませんが、
どのスタイルの絵にしても、
芸術は表現を通じて表すので、
書く前提は一定の技術がなければ当然表現できません。
技術は練習で身に付けるほかないです。

これは決して油絵や水彩画などの経験者に対して言っていることではありません。
これから何をやったらいいのか、
など迷っている人のために参考になる話と思います。

特に一つに絞らない、できない人は
大抵作ったものはザツ
でしかないといっていいでしょ。



Facebook コメント